舞台となる北三陸市は架空の町ですので、まずは設定や台本の情報をもとに周辺地図を作成します。 ロケ地で撮影を行う美術・技術チームにとって、ドラマの設計図ともいえる地図が非常に重要です。これがなければチームの共通認識が生まれず混乱が生じてしまいますから。『あまちゃん』のように架空の町という設定であればなおさらです。 まずは北三陸鉄道の路線図を含む広範囲の地図を作りました。 開通式を行った北三陸駅。ここには喫茶リアスとスナック梨明日(リアス)があって、駅前には観光協会があります。 アキが通う高校は自転車で行ける距離という設定なので北三陸駅の近くに、線路をたどると夏の家の最寄り駅として袖ヶ浜駅、アキの友人・ユイの家の最寄り駅として畑野駅が設定されています。 ちなみに畑野駅から北三陸までの所要時間は台本上で1時間となっていますので、地図にも反映させてあります。
次に主な舞台となる袖ヶ浜地区についてはもっと詳細な地図を作成しました。ほぼ現地のままですが、漁協の位置は変更してあります。 本来の漁協の位置からは海を見ることができないため、現在は使用していない倉庫をお借りしました。 この倉庫を漁協らしく見えるように美術チームが飾りこんでいますので、架空の町を作るという意味では第1回の注目ポイントですね。
コメディでは美術のリアリティが失われるとドラマ全体が崩れてしまうので、当初からリアリティにはこだわる方針でした。 その意味で第1回では、夏が暮らす天野家のセットと鉄道の開通式の場面も見どころといえます。 北三陸鉄道の開通式の場面は資料を参考にして1984年当時の雰囲気を再現しました。駅舎を丸ごと1984年にしたと言っても差し支えないぐらいです。 天野家は現存する漁師さんの家をほぼ忠実に再現したうえに小道具類もそのお宅から借用したので、これ以上ないリアリティで海女さんの暮らしを描いています。
第1回では、一瞬しか登場しませんが観光協会のジオラマにも注目してください。 実はそのジオラマは設定や台本から読み取れる情報を可能な限り反映させて作りこんであるのです。例えば琥珀の採掘現場のフタを外すとロケ地と全く同じ坑道が現れるというこだわり具合です。 宮藤さんの台本にジオラマの小ネタが登場しても速やかに対応できるようにするため、事前の準備をどれだけ充実させるかが勝負です。 画面に登場しないかもしれない細部のリアリティにもこだわるのが美術という仕事ですから。
これまで連続テレビ小説の5作品に携わった中で宮藤さんの台本が最も大変でした。台本の中に設定がかなり詳細に書き込まれており、これまで経験したことのない奇想天外なセットを要求されます。
例えば第3回で登場する『喫茶リアス』と『スナック梨明日(リアス)』のお店のタネ明かしの場面。 宮藤さんならではの仕掛けに対して、美術の職人たちが、更におもしろくしようという意気込みで作っています。 一方で美術からは小道具や持ち道具などを提案することもあります。天野家のお座敷のイスは桶を逆さまに置いて座布団を載せたシンプルなものですが、年配の夏役の宮本信子さんは腰掛けたり枕にしたりと役作りと芝居にも生かした結果となりました。 『あまちゃん』をご覧になった方にはぜひ、美術の仕事がどこをどう手を加えているのか、知っていただくためにも、ぜひ現地を訪れていただきたいと思います。 またNHKオンデマンドで何度も見直していただき、新たな発見をしていただくのも『あまちゃん』の楽しみ方だと思います。
<取材協力> NHKデザインセンター美術デザイナー 丸山純也
アキら練習生が入居する合宿所“まごころ第2女子寮”は谷中にあります。古い民家を荒巻の会社が買い取って合宿所に改造した設定になっています。 東京EDOシアターが上野なのでその近辺をロケハンした結果、谷中になりました。 谷中は古い建物も残っているので外観の家を決めてセットデザインしました。 アイドルの卵たちが住んでいるので、談話室には門限、恋愛禁止などの紙がところどころ貼ってあり、歴代の練習生が残していった設定で椅子などの小道具も揃っていないようにしています。
地元アイドルで出身地がみんな違うので、毎回、食事はご当地の料理が出てきたり、食卓に置いてある調味料が沖縄のものや、ゆずこしょうだったり各出身地のものを用意したので、よく見てみると面白いかもしれません。 ガラス張り冷蔵庫も近所の牛乳屋さんが寄付したという設定で、実は冷蔵庫の上に貯金箱が置いてあって飲んだらお金を入れる仕組みになっています。
水口の部屋は玄関近くにある設定で、GMTメンバーが門限をやぶったかどうか確認できるようになっています。 実は水口は、裏設定でプロのミュージシャンを目指していたということにしているので、部屋にはギターを置いたりしています。 パソコンで作曲をしているかもしれませんね。 アキたちがいる二階の部屋は宮城県出身の小野寺薫子との二段ベッドがある二人部屋ですが、そこにGMTリーダーの埼玉県出身の入間しおりが居座っている設定です。 部屋を狭くゴチャゴチャさせることで練習生というあまり待遇が良くない設定を表現しています。 アキの学習机には北三陸の思い出の写真や海女グッズを机周りに配置しているので注意していただくと発見があるかもしれません。 この部屋は代々練習生が入れ替わり住んでいた設定なので壁やベッドに「アメ女になってやる」とかアイドルを目指す決意などの落書きがあります。 また合宿所の名前も“まごころ第2女子寮”にしているのは2軍で、実は1軍の合宿所があるということを意識させるための宮藤さんのアイデアです。 落書きは合宿所以外にもEDOシアターの地下にあるレッスンルーム、別名“奈落(ならく)”の壁にも書かれています。 “奈落”も下から上へのし上がるという構図をわかりやすく見せるように“リフター”を真ん中に設置して練習生が持ち上げています。 アキの部屋に天窓をつけたのも、上を目指し見上げるための意図的な部分もあります。 EDOシアターの階段も上にのし上がっていくという形をわかりやすく見せています。
女優の鈴鹿ひろ美が隠れ家的に利用している“無頼鮨(ぶらいずし)”です。 EDOシアターの楽屋口を出たところにある設定になっています。 実際に上野はお寿司屋が多く、下町の雰囲気を作り込んでいます。 お寿司屋さんにしたのも“うに”などの海産物を扱うことから北三陸とつながっているという意図で、宮藤さんがそういう設定にしたかもしれませんね。
今回はアキがアイドルを目指して上京した2009年と25年前の1984年に春子がアイドルを目指す話が交錯するんですが、その舞台のひとつとして純喫茶“アイドル”が出てきます。 場所は原宿竹下通りから一本入った“裏原”あたりの設定になっています。 昭和の雰囲気を出すために現存している純喫茶を見に行ったりしました。 窓は手作りの青色ガラスを使用しています。海の中にいるような感じで北三陸の海につながればと青色のガラスにしました。 半地下の設定にしているのは、春子にとっての“奈落”にしたかったからです。
今後は25年前の春子の話で“無頼鮨”、“EDOシアター”などの場所がリンクしてくる話になってきますので楽しみにしてください。 25年前の春子のシーンはほとんどロケーションで、現在のものを隠して昭和のにおいを感じるもので飾り込みました。 また春子の出演した番組など「劇中劇」が多く登場します。 昭和を意識したテレビセットづくりになっているので懐かしく見ていただければと思います。
安部ちゃんも久しぶりに登場します。 彼女は“まめぶ”を屋台で販売していますが、“まめぶ”だけでは商売にならないので、うどん、そばと一緒に、さりげなく販売しています。 うどん、そばの市販“のぼり旗”に手書きで“まめぶ”の文字をちりばめており、美術の遊び所のひとつです。
東京編ではアキを取り巻く環境が目まぐるしく変化します。 東京での下積み生活と共にアキの成長していく過程が映像で表現できればと思っています。
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