特集/オススメから番組を選ぶ

2人に1人が泣いた! 不朽の名作「おしん」 朝の連続テレビ小説「おしん」特集

第1回はテレビドラマの金字塔「おしん」。
1980年代前半、
日本のみならず海外でも“おしんドローム”を巻き起こした番組です。
つらいことがあっても明るさを失わず前向きに生きる
おしんの姿に皆さんも感銘を受けるはず。
放送から25年たった今でも色あせることなく訴えかけてきます。
当時演出を務めた江口浩之さんに
「おしん」にかけた熱い思いについて語っていただきました。

演出担当:江口浩之さん

演出担当:江口浩之さん

苦境を乗り越える姿が前向きに生きる力を与えてくれる

山形の貧しい農家に生まれた少女おしんが、
成長しながら明治・大正・昭和の激動の時代を生き抜く姿を描いた
連続テレビ小説「おしん」(1983年4月~84年3月)。
食べながら、着替えをしながら見るという“ながら視聴”ができない
本格的なドラマとして大きな話題を集めました。
最高視聴率62.9%を記録するなど、
テレビドラマ史上にさん然と輝く感動作です。
当時演出を務めた江口浩之さんに制作の舞台裏について伺いました。

リアリズムへのこだわり
ものすごい高視聴率を記録しましたが、
そもそも「おしん」はどのような番組を目指してスタートしたのですか?
江口:当時はね、テレビ小説のときに朝ごはん食べてさ、サラリーマンはそれから出て行ったんだよ。それまでのテレビ小説っていうのは、さわやかで、食べながらでも見られるでしょ。だから、その箸を、遅刻しても止めさせようっていうのが番組の狙いだったわけ。ところが、箸を止めるっていうことになると、ある種のドラマ性がないとだめなの。それでまあ、「お涙ちょうだい」って言葉はあんまり好きじゃないんだけど、こういう女性の、こういう人生があったんだぞ、っていう強力に訴えていく番組を作ろうとしたわけ。
強力に訴えるということが、
江口さんが徹底的にこだわったというリアリズムにつながるわけですか。
江口:ドラマっていうのは、基本的にはうそから出来上がっているから、うそから真実をあぶり出そうとするわけだよな。どういう手法でそれをやるかとなると、やっぱりリアリズムしかないじゃない。
おしんが裕福になってからなんだけど、生まれ故郷を訪れる場面を最上川近くの廃村で撮影したんだ。そしたら雪が降ってきちゃって、雪の廃村っていうのはいいんだよね。くっきりしてて。で、その廃村に入ってくシーンで乙羽信子さんがね、自然に涙出しちゃったんだ。台本にはないんだけど。あれは絶対にセットだったら涙流してないんだろうね。そういう雰囲気が出るっていうのは、ある種のリアリズムなんだよ。
おしんイメージ
セットもリアルに作ったそうですね。
たとえば、おしんが育った家とか……。
江口:それはやっぱりね、実際のロケのような雰囲気で作りたかったわけだよ。家のセットも、出入り口の坂道も、屋根も含めてリアルに。だから、相当金かかったんだよ。住んでるところからああいうふうに作っておくと、役者も演技に力が入る。小道具の紙きれ一枚に至るまでリアルに作っておくことで、いろいろ相乗効果が出てくるの。
その当時の人たちが体験したことをリアルに役者の周りに埋め込んで、その中で役者が動くということがいかに大事かってことだね。
だけども、当時の状況を正確に再現してるわけじゃなくて、ドラマ上のリアリズムで行く場合もあるわけ。本当のリアリズム、くそリアリズムじゃなくて(笑)。“夢リアリズム”って俺は言ってるんだけど、そこに制作者の夢があったりしてね。そういうもんだと思う。
つららを出すのに、松ヤニを使って本格的に見えるようにやった、
という話を聞いたことがありますが、そういうことですか。
江口:そう、リアルに映るんだよ、“本物”より。
たとえば、「大根飯」でも時代考証の先生がいろいろ調べて“糧飯(かてめし)”っていうのを見つけてくれてね。大根を米粒みたいに切って米やら麦やら粟やら混ぜておじやにしたらしいんだけど、水っぽくて味も薄いんだよ。だけどさ、それ実際にリアルなものを作ったんじゃ、役者が食わないわけでしょ。おいしいおいしいって食わなきゃいけないから味付けしてるんだよね。
スタッフをもうならせた天才子役
おしんイメージ
小林綾子さんを起用したきっかけは?
江口:普通のオーディションで見つけたんだよ。面接なんかしてるときは、そんなに目立つ子じゃなかった。美人でもないしね。でも、何かある。それをみんな感じたんだよ。で、オーディションの最後のほうになったら、もう断然綾子がいいんだな。周りよりも。結局、彼女の人間性なんだよね。
今でも演技がうまかったとは俺は思わないけど、何かその主人公の気持ちになったものが自然と出てきて……あれは大したもんだ。
それから綾子っていうのは記憶力がすごかったんだよ。お母さん役の泉ピン子がセリフにつまると、横で綾子が教えたりして。1回台本を読むと全部覚えちゃう。IQがよかったんじゃないかな。
青年期を演じた田中裕子さん、
熟年期を演じた乙羽信子さんも適役でしたね。
江口:うん。何人か会って、裕子が一番しっかりしてるってことで決まった。強さがあって、その強さが嫌みにならないからいい。なかなかそういう本当の女優っていないんだよ。
乙羽さんは、役になりきるからすばらしいし、おしんがああいうおばあちゃんになっていくっていうのはいいからさ。
作り手の情熱がドラマをおもしろくする
「おしん」が成功した理由は何だと思いますか?
江口:おもしろいものができるときって、仕事に没頭していって最後には仕事ということを忘れて逸脱しちゃうんだよね。「これを作るんだ」というふうになっていく。そういう錯覚がものすごく大事なんだけど、「おしん」も作者の橋田さんはもとより、スタッフ94人がそれぞれ番組作りに没頭した。これだと思うよ。
最後に、江口さんにとってのドラマとは?
江口:ドラマはおれの人生だよね。やりたくてやっているからさ。
連続テレビ小説 おしん

番組紹介を見る

ドラマ

連続テレビ小説 おしん

ドラマ作りへの情熱は誰にも負けない! そんなスタッフの思いが「おしん」の空前絶後の大ヒットを支えたのです。放送から25年。何度見ても「おしん」は生きる勇気と感動を与えてくれます。